この記事の簡単な要点
- 天ぷら料理店は大まかに、高級店、ファストフード店、中間の店舗という3つのカテゴリーに分類される。
- 日本料理店の中でも、天ぷら専門店は比較的堅調で、特に外国人観光客の増加によるインバウンド需要が期待できる。
- 技術の進歩により、ファストフード型天ぷら店が増え、天ぷら料理をより手頃な価格で提供することができる。
- 客単価、ブランド力、リピート率、キャッシュフローなどの、重要な経営指標をモニタリングし管理することが必要。
- 経験豊富な職人の採用と育成、固定客の獲得が長期的な成功の鍵。
目次
「天ぷら屋さん」の開業のメリット・儲かるチャンス
安定したマーケットであるが、伸び代も大きい
- 飲食業界全体では店舗数の減少が見られるが、天ぷら専門店を含む、日本料理店などの専門料理店はわずかな減少に留まり、他の分野に比べて堅調な状況を維持している。
- 特に天ぷら料理を取り扱う業態は、成熟市場の一環として位置づけられるが、海外からの観光客の増加によるインバウンド需要の高まりが見込まれ、他社と差別化された店舗でには成長の余地が大きく残されている。
コンセプトを明確にさせやすい
- 天ぷら屋は大きく分けて「高級店」「ファストフード店」そしてそれらの「中間に位置する店舗」という3つのタイプに分類される。
- 自店の位置づけとストアコンセプトを明確にし、ターゲット顧客に適したメニューやサービスを提供することが重要である。
高単価ビジネスとしても、低単価ビジネスとしても成功させやすい
- 高級店の場合、ランチメニューは1000円台〜3000円であり、夜は1万円以上となっている。
場所によっては数万円の料金が設定されていることも少なくない。 - 中間の店舗では、昼の定食が1000円台から提供され、夜のコース料理は5000円台が一般的である。
- ファストフード型店では、500円を目安にした価格設定がされている。
- 近年500円前後で食事を提供するファストフード型店舗が増えているが、客層が異なるため、高級天ぷら店との競争は大きくないと考えられる。
技術の進歩と共に、低コストで作れるようになった
- 天ぷら料理店の歴史は長く、江戸時代中期に流行した「天ぷら屋台」が一般に広まった原点とされている。
- 戦後、これらの屋台が姿を消した後は、高品質な食材を使用した高級料理としての地位を確立した。
- しかし、昭和60年代に登場したファストフード型の店舗は、市場に大きな変化をもたらした。これらの店舗は、自動フライヤーの開発やチェーン展開によるコスト削減を実現し、手頃な価格での提供により天ぷらを日常的な食事として定着させた。
「天ぷら屋さん」の開業のデメリット・リスク
小規模な店舗の淘汰が増えている
- 天ぷら料理店特化の統計データは見当たらないため「日本料理店」のデータを参考に分析をする。
- 2012年から2016年にかけて、日本料理店の営事業所数は減少する一方で、従業員数は若干増加している。これは、中規模以上の店舗が従業員を増やしている一方で、小規模な個人事業主の店舗が市場から淘汰されている事が要因と考えられる。
- 天ぷら屋では、高齢の経営者や調理人が多いことからも「小規模店舗の開業の勝率の低い」という安易な分析をするのは誤りである。
開業エリアの競合を十分に分析した上で、勝てる戦略を描けるのであれば、十分に戦う事ができる。
専門知識・専門技術が必要である(高級店の場合)
- 天ぷらの調理技術は、長い時間をかけて習得するものである。老舗の店舗でも、季節に合わせた旬の食材の使用や、客層に合わせた盛り付けや食材の変更など、さまざまな工夫が行われている。
- そのため、大衆向けでない、高級路線の天ぷら屋さんを新規で開業する場合は、相応の戦略が必要とされる。
- 天ぷら作りには多岐にわたる技術が求められるが、中心となるのは「揚げ」の技術である。
適切な油の温度は一般に180度前後とされるが、これは使用する食材、油の種類、気温や湿度によって微妙に変わるため、この技を習得するには長い時間が必要となる。
コンセプトによって競合が異なる
- 高級日本料理店、中間の店舗、ファストフード型店の間では、消費者のニーズに合わせて適切に市場が分かれている。
- 高級日本料理店の中には、天ぷらを提供する店も存在し、これらが高級天ぷら専門店と競合している。
- 一方で、低価格のファストフード型店は牛丼やそば・うどん店、ハンバーガーショップ、コンビニエンスストア、中食店などと競合している。
FLコストが高く、利益率は必ずしも高くない
- 一般的に、飲食店では食材費と人件費の割合FLコストの比率(Food and Labor)は55~65%とされるが、天ぷら料理店では高度な技術を要するため、職人の人件費が嵩み、この比率が若干上回ることがある。
天ぷら専門店の開業を「成功させる」ポイント
経営の重要指標をモニタリングする
- 天ぷら料理店の市場は、高級な老舗店、手頃な価格のファストフード型店、そしてそれらの中間に位置する一般的な店舗という、大きく分けて三つの業態に分類される。
- それぞれの店舗は、自身がどの業態に属するのかを明確に理解し、店舗コンセプトやターゲット顧客に合わせたメニューや接客サービスを提供することが求められる。
客単価
- 経営上、最も重要な指標は「客単価」である。常に自店舗の業態に適した客単価を維持できているか、また客単価の変化が売上にどのような影響を及ぼしているかを把握することが大切である。
ブランド力
- 高級天ぷら料理店の運営では、伝統ある老舗店のブランド力が重要である場合も多い。
リピート率
- どのコンセプトであっても共通しているのは、リピーターの割合である。
キャッシュフロー
- 天ぷら業界では現金取引が基本であるため、在庫を最小限に抑えることで、キャッシュフローの問題を最小化する事ができる。
キャッシュフローに影響を与える主要な要素は、売上、食材費、人件費の三つである。
インバウンド需要の取り込み
- 天ぷらは日本の伝統料理の一つであり、食の嗜好が日増しに多様化しているにも関わらず、常に人気を保っている。
- 日本政府は近年、観光立国を推進しており、外国人観光客の需要をどのように取り込むかが重要な成長の鍵となる。
- 観光庁の調査によると、日本を訪れる外国人観光客が最も楽しみにしていることは「日本食を食べること」である。
これは天ぷら料理業界にとっても、外国人観光客からのインバウンド需要が取り込める裏付けとなっている。 - 特に、外国人観光客が多く訪れる地域に位置する天ぷら料理店では、メニューを多言語で提供し、写真を掲載し、フレンドリーな接客をすることで、インバウンド市場を取り込めるチャンスが広がる。
- 今後も安定した需要が見込めるため、外国人観光客のニーズを捉えることは、業界の成長には必須だ。
ブランド力を高める
- 高級天ぷら専門店では、選び抜かれた食材と、高度な調理技術を価格に反映させやすく、収益性向上の鍵となる。欲を言えば、老舗のブランド力があれば、さらに利益を伸ばすことができる。
- 高級店であるほど、日々の揚げ油交換が頻繁に行われていることからも、油の使用量が多いため、使い終わった油の効率的なリサイクルによるコスト削減が、収益性を高めるポイントとなる。
油の調合にこだわる
- 天ぷら料理店の調理工程において重要なのが使用する「油」である。
胡麻油、菜種油、綿実油、大豆白油などは、熱に強く酸化しにくい特徴があり、これらを精製したサラダ油は熱に弱いがカラッと揚げる事ができる。 - 多くの店舗では、これらの油を季節や気候、素材に合わせて調合して使用している。
食材・タネにこだわり、独自メニューを開発する
- 天ぷらの主要食材、またタネと呼ばれるものには、海老、キス、イカ、穴子などの魚介類やかぼちゃ、茄子などの野菜が含まれる。
- 四季に応じて、旬の食材を使用するのも特徴で、春にはたらの芽やたけのこ、秋には銀杏やきのこが使われることが多い。
- 中でも最も人気のあるメイン食材は海老で、特に車海老が最上とされるが、巻海老を提供する店もある。店によってタネの大きさや、さばき方に違いがあり、独自のメニュー開発が差別化の鍵となる。
健康志向の高まりに応える
- 天ぷらはカロリーが高いとされるが、カロリー表示を積極的に行う店舗は少ない。
- しかし、消費者の健康志向の高まりを踏まえ、油の吸収を抑える天ぷら粉を使用するなど、カロリーを減らす工夫をしている店舗もある。
海外への出店を進める
- 業界の大手企業であるテンコーポレーションは、2008年に中国・上海に海外1号店を出店し、その後タイやフィリピンを中心に20店舗以上を展開している。
- 国内市場の成熟度や海外での日本食への関心の高まりを考慮すると、今後は海外出店が加速することによるメリットは大きい。
- 厚生労働省の振興計画に認定された全国飲食業生活衛生同業組合連合会の組合員は、「新興事業貸付」の利用ができる。海外市場への展開を考える飲食業者には、海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)による融資が利用できる。この機構は、日本の衣・食・住などの魅力ある商品やサービスの海外での事業展開を支援・促進することを目的として設立された官民ファンドである。
2014年12月にはラーメンチェーン店「博多一風堂」(力の源ホールディングス)が約7億円の融資を受けた事例もある。これは、日本食のグローバルな普及を目指す企業にとって、大きな支援となるため、利用を検討するべきだ。
天ぷら専門店の開業で「失敗してしまう」と儲からないポイント
コンセプトに応じたサービスにする
- 高級店では、季節の素材を客の前に展示し、目の前で揚げたての天ぷらを提供する形式が一般的である
- これらの店舗は多くが歴史ある老舗である事が多く、天ぷらを揚げる技術の習得には長い時間が必要であることからも、価格は高めだが、贅沢品としての需要は強く、常連客や祝い事を中心に支持されている。
競合が多いエリアでの出店をしてしまう
- 天丼や天ぷらのチェーン店の地域分布を見ると、店舗が首都圏に特に集中していることが明らかである。
- 開業する際は、十分に市場調査を行なった上で、競争が比較的緩いエリアで戦う必要がある。
現金が不足する
- 天ぷらの食材は、多くの場合、生鮮市場から仕入れられる。現地での購入時は現金払いが一般的だが、粉や油などの購入では、取引先が固定されている場合には月末払いや掛け売りが行われることもある。
- 顧客によっても決済方法は違うが、代金は料理の提供後に現金で支払われることが多い。
しかし、ほとんどの店舗ではキャシュレス決済を導入しており、クレジットカードでの支払いも受け付けている。
特に高級料理店では、接待用途での利用が多く、クレジットカードでの支払いの割合が高いことが多い。
そうなると、売上と現金の入金タイミングに若干のズレが生じるため、ギリギリの資金繰りで経営をしていると、運転資金が足りなくなるリスクがある。 - フランチャイズチェーン店に加盟する場合は、一括仕入れにより仕入れ価格の削減ができるため、現金を多く残しやすいというメリットがある。
- 天ぷら屋さんは、現金回収と支払いが基本であるため、経営が順調な場合、運転資金を調達する必要性は低い。
ただし、季節や収穫量によって原材料費が変動することもあるので、それを考慮する必要がある。 - 設備投資に関しては、開業時には物件取得費や内装工事費、厨房や空調設備の費用、什器などにかかる初期投資が必要となる。その後の経営においては、フライヤーなどの厨房設備や什器の修理・更新、設備の拡充に際して資金調達をする必要が生じる。
天ぷら専門店の開業に必要な「資格・免許・申請届出」や「関連法」は?
- 飲食業を営む以上、食品衛生法により、調理品の提供を行う業務では、保健所からの営業許可及び指導を受けることが義務付けられている。
- 製造物責任法は、製造業者が製造・加工した製品の欠陥により、人に被害が生じた場合、製造業者が損害賠償の責任を負うと定めてられている。
飲食業の場合、提供する料理が製造物と見なされるため、この法律が適用される。 - 食品循環資源の再生利用の促進に関する法律(食品リサイクル法)は、ゴミ問題の解決を目指し、一定規模以上の食品製造事業者に食品廃棄物の削減と再生利用を義務づけている。
- 融資制度に関しては、天ぷら料理店特有の制度はないが、開業時には日本政策金融公庫の「新企業育成貸付(新規開業資金)」や「新創業融資制度」などが利用可能である
- 飲食店向けの「生活衛生貸付(一般貸付)」や「生活衛生セーフティネット貸付」も存在する。
- 中小企業向けの金融支援策として、都道府県の中小企業支援センターや商工会・商工会議所を通じた金融支援があるほか、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの機関が支援を提供している。
天ぷら屋さんの開業は儲かる?開業に成功した経営者の事例・体験談
飲食店の一般的な収支構造は、固定費が全体の約25~30%(賃貸料、減価償却費など)、変動費が約65%~70%(原材料費30%、人件費30%、水道光熱費など10%)を占めるとされています。
特に賃貸料は立地によって大きく異なるため、店舗コンセプトによって、適切な立地の選定をすることが何よりも重要な事だと考えています。
収益性を向上させるには、売上に占める人件費の割合を抑える必要があるのですが、技術的に高度な職人の人件費を削減するおすすめできません。新規での熟練した職人の採用は非常に難しく、採用できたとしても採用単価が非常に高いです。
しかも、職人の世界ですから、未経験者を採用した後に、教育をする手間も大きいです。一人前になった頃に、独立なんてされたら目も当てられません。
そのため安定した経営基盤を作るには、美味しい天ぷらを提供し、固定客を増やして売上を上げることが重要です。
その上で、職人さんにも、正当な報酬を支払う事が重要だと考えており、巡り巡って、それがコスト削減に繋がると信じています。
弊社の場合、経常利益率は概ね5%前後を推移していますが、これは天ぷら専門店ならではの、FLコスト比率の高さが影響していると分析しています。売上高営業利益率は、販売費・一般管理費の高さからも3%程度に留まっています。
総資本回転率はやや低く、資本効率はあまり良くないですが、売上総利益率は60%を上回っているので、一般的な飲食店と比較しても悪い水準ではないと思います。
自己資本比率は30%台となっており、借入金がやや大きいのが、財務面での経営課題だと認識しています。
しかし、顧客のリピート比率も高いので、長期的な展望は非常に明るいと認識しているので、この調子で成果を出し続けたいと思っています。
- 本記事の内容は調査時点のもので、独自調査による推測の情報を含んでおります。数値等の情報を含め保証されるものではありません。
コメント